吉田誠 クラリネット・ソロ・コンサート

September 25, 2017

清々しい秋晴れとなった秋分の日の昼下がり、滋賀県・大津市の「ながらの座・座」というところへ、クラリネット奏者・吉田誠さんのクラリネット・ソロ・コンサート「古庭園・大人ライブ VOL.39〝庭と音楽〟/吉田誠クラリネット+ Ⅰ.Solo 移動する音・配置される音」を聴きに行ってきました。
 

 

 

 

会場である「ながらの座・座」とは、江戸時代初期(1645年)に建てられた、三井寺(長等山園城寺)の五別所のひとつである微妙寺の庫裡(僧侶の宿舎)「正蔵坊」で、戦前からは一般住宅として使われてきたと言われ、現在は橋本さんという方の私邸にして登録有形文化財に登録(「橋本家住宅(旧正蔵坊)主屋」)されている由緒ある建物です。この「正蔵坊」は書院造りで、築370年を経た現在は一部に改修が加えられているものの、ほぼ当時のまま使われているそうで、敷地の中央部に建つ書院からは古庭園(池庭)を臨むことができます。「ながらの座・座」は、この元・正蔵坊と古庭園を守り継ぎ、また楽しむ場として活動を行うべくつけられた名なのだそうです。

 

 

 

今回コンサートを開催した吉田誠さんは1987年兵庫生まれの気鋭の奏者で、以前、サイトウ・キネン・フェスティバル松本(現セイジ・オザワ 松本フェスティバル )や神戸国際芸術祭などでアンサンブルの一員としてその演奏に接したことがあり、いつかソロを聴いてみたいなぁと思っていたのですが、今回それがようやく実現し、クラリネット一本のみのコンサートを聴くことができました(吉田さん自身、なんとクラリネット一本のみでのコンサートはこれがはじめてのことだそうです)。しかも、プログラムはJ.S.バッハの作品を除き、世界初演を含むオール現代物という趣向を凝らした実験的で気合の入ったものでした。

 

 

 

会場の「ながらの座・座」は、座敷に座布団と若干の椅子が置かれた定員40名というとても親密な空間です。一般参加も可能なU-18コンサートということもあり、小さなお子さんや学生さん、ご年配の方まで、幅広い年代の方々で座敷は満席。「ながらの座・座」の代表・橋本敏子さんのご挨拶に続き、いよいよ吉田さんの演奏の始まりです。

 

開幕のJ.S. バッハ「無伴奏フルートのためのパルティータ」はさすがにブレッシングが大変そうな部分もありましたが、曲が進むにつれ単にこの作品を美しく精巧に演奏するのではなく、この作品のルーツたる「舞曲」としての性格をヴィヴィッドに引き出そうとする吉田さんの意図がとてもよく伝わってきました。

 

続いては一挙に時空が飛んで、フランスの作曲家メシアン(1908-1992)が第二次大戦中ドイツ軍の捕虜となり収容所内で作曲した「世の終わりのための四重奏曲」(『ヨハネの黙示録』第10章に基づく全8楽章)より、クラリネット独奏のために書かれた第3楽章「鳥たちの深淵」の演奏。敬虔なカトリック教徒だったメシアンは「鳥類はわれわれの遊星上に存在するおそらく最大の音楽家である」と言い、無垢の鳥の声(自然)に神の恩恵を見出した作曲家ではないでしょうか。黙示録的な世界観に満ち、「深淵、それは悲しみや疲労の時。この時と対極にある鳥たち — 彼らは、光、星、虹、そして喜びに満ちたヴォカリーズたる、我々の願いそのものである」とメシアンが注釈した「鳥たちの深淵」を、吉田さんは外に出て庭園にかかる石橋(現世と来世を繋ぐ)の上で演奏されました。庭石、水面、木々、そして庭の小高い斜面が見事な反響板となり、倍音がごく自然に聴こえる実にピュアで求心的な音が伝わってきました。荘重で憂いに包まれた作品ながら、中盤でリズミックな鳥の声の模倣が挟まれるのですが、この鳥の声の部分の演奏が静まった時、何と近くのお寺から偶然にも鐘の音が静かに響いてきたのです。洋と和の音、キリスト教と仏教が一つの時空に溶け合うという、この奇蹟的な神秘性。正にこの場所、この時にしか経験できない一期一会の素晴らしい瞬間でした。

 

 

そのメシアンを師とした作曲家にして偉大な指揮者であったブーレーズ(1925-2016)の作品「ドメーヌ」(「領域」の意)も、庭園での演奏。この作品は、様々な音楽素材の断片が書かれた楽譜=カイエ(「メモ帳」と行った意)がAからFまで6種あり、演奏者はこのカイエを置いた6つの譜面台を、自ら場所移動して演奏するという空間移動の音楽です。吉田さんは、庭園の斜面から池のほとり、そして座敷など遠近的に様々な場所に6つの譜面台を置き、それぞれの場所で発音される音のスピード感や広がりといった響きの相違を出す見事な工夫をされ、フラッターや重音奏法をはじめとする様々な現代的な特殊奏法の散りばめられた多彩なこの作品の本質をわかりやすく伝えてくれました(前日の雨で庭園の斜面が少しぬかるんでいるようで足元がちょっと大変そうでしたが…)

 

小休憩を挟んでは、アメリカのミニマル・ミュージック作曲家として著名なライヒ(1936-  )の「ニューヨーク・カウンターポイント」の演奏で、吉田さんは自ら事前に録音した異なる9のパート(あるいは10のパート?)を再生しつつ、自ら1パートを生演奏。座敷の四方八方に配置されたスピーカーから聴こえてくるグルーヴィーでオーロラのように刻々とカラフルな音色や音型が変化するクラリネット録音とライヴ演奏の競演。ただ終盤、録音された一部のパートの再生がズレてしまったのがちょっと残念でしたが。。

 

続いては、世界初演と銘打たれた、藤倉大(1977-  )の「ピアノと管楽のための五重奏曲"GO”」より第5曲(クラリネット独奏版)。オリジナルの五重奏曲(この作品も今年6月に世界初演されたばかりだとか)の全体の詳細はわからないのですが、抜粋としてのこの第5曲が、メシアンの「鳥たちの深淵」のように断章として自立的な作品かと言われると、うーん、とちょっと考えてしまいます(聴き手によっては捉え方は様々だと思いますが)。。オリジナルの全曲中において、前後関係の中で聴くときっと有機的な輝きを得る作品なのではないかという感じを受けました。藤倉さんの作品ではホルン独奏の「PoyoPoyo」といった楽器の質と深く結びついた摩訶不思議な作品がとても興味深く思えるのですが、この作品はよりインティメートな小品感覚(3分程度だったでしょうか)でクラリネットが発する音のモザイク的な素早い上下運動とゆったりとした部分との時空の伸縮関係が特徴のようで、しかもライヴ・エレクトロニクスによる水の波紋のようなエコー効果が施されて印象深い響きではあったのですが。YouTubeに原曲の五重奏曲のライヴ録音が上がっているようなので、改めてじっくり聴いてみたいなと思いました。

 

プログラムの最後は、現代屈指のドイツのクラリネット奏者にして作曲家であるヴィトマン(1973-  )の「3つの影の踊り」(エコーの踊り、水の踊り、アフリカの踊りという3曲で構成)で、最初のバッハの舞曲性と呼応する粋な選曲でした。ヴィトマンの作曲技法としてはやはり何と言っても他作曲家等からの絶妙な「引用」が大きな特徴だと思いますが、特に第1曲では「エコー」としてストラヴィンスキーの「春の祭典」のモティーフや、日本にも興味を持つヴィトマンならではの尺八の奏法にも似た響きなどが「こだま」した面白い作品でした。第3曲「アフリカの踊り」ではクラリネットのタンポをパタパタと叩かせる打楽器的要素や即興性、さらには最後に演奏者に「あ゛ーッッ!」と大声でシャウトまでさせてしまうエンターティンメント性が満載で、会場も大いに盛り上がっていました。吉田さんはアンコールとして同じくヴィトマンの「ファンタジー」を大熱演。あっという間に時が過ぎました。

 

美しい漏れ日、そよ吹く風、葉擦れ、蝉や野鳥の声、池の鯉が水面に立てる音、さらには車の音やご近所の犬の声までが、あるがまま自然に共存する「ながらの座・座」。今ここに、自分がいるという実感。ファウストの言葉を借りるなら「時よとどまれ お前はいかにも美しい」、いや、「ながらの座・座」においては「お前は〝愛おしい〟」の方が相応しいかもしれません。

 

 

370年前と変わらずあるものもあり、また今にしかないものもあり、「ながらの座・座」は正に時空の交差点でした。形態は大きく異なるものの、同じく「音空間」を所有するものとして、この「ながらの座・座」は羨望の場所となりました。

 

 

コンサート後にはお茶とお茶菓子が振る舞われ、縁側で足を下ろして美味しく戴きました。そんなワタクシの足の横には、あんれまぁ、吉田さんが庭園での演奏時に履いていた少々泥のついてしまった靴が。。「ながらの座・座」ならではの光景かもしれませんね。

 

 

大津駅までの帰り道、駅近くでハロウィーンのお化けかぼちゃ親子を発見!白い色はちょっと珍しいですよね(笑)

 

 

 

 

 

 

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